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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 愕いたことに、キョンシルの予想を良い意味で裏切り、トスは帰ってきた。キョンシルはトスの布団を敷き、夕飯の準備も整えて待ち続けたが、彼が実際に帰宅したのは深夜、かなり更けた頃であった。
 キョンシルの傍らの布団にいつものように横たわりながらも、トスは安物の酒と脂粉の匂いを身体中に纏いつかせていた。トスがそもどこに行ったのか―、男女のことについては疎い奥手のキョンシルにも何となくは理解できた。
 トスは妓房(キバン)に行ったのだ。つまり、他の女を、妓生(キーセン)を抱いた。あの海辺の町で―波頭が白い砂を洗う海岸で、トスは誓ったはずだ。これからは、キョンシルだけを見つめ愛していくと。

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