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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 キョンシルという人間をトスがよく理解していれば、これが何かの誤解かもしれない―と僅かなりとも考えるはずだし、更には、言い分に耳を傾けて誤解だという主張を信じてくれるはずだ。
 非は誤解されても致し方ない状況を作った自分にあるとはいえ、トスはキョンシルの言葉に耳を貸そうともしなかった。キョンシルにはそれが残念だったし、哀しかった。
 キョンシルは込み上げてくる涙を堪え、立ち上がった。たとえトスが出て行くにしろ、そうでないにしろ、夕飯だけは作ろうと思ったのだ。
 力なく小部屋を出ていくキョンシルをソンは強いまなざしで見つめている。その瞳には思いつめたような切迫した光があった。

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