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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

―この(朝)国(鮮)もまだまだ棄てたものではないわね。
 キョンシルは無意識の中に微笑んでいた。いずれは、あの人がこの国の中枢―朝廷の官僚になり、この国の政治に関わるようになる。たとえ一人でもああいう両班という身分を笠に着ない人がいれば、身を挺してでも常民の幼い子どもを庇うような人がいれば、朝鮮の未来にもまだ救いがあるというものだ。
 そのときだった。またしても前方から怒号と悲鳴が聞こえてきて、キョンシルは眼を見開いた。
―今度は何?
 慌てて騒ぎの方に駆けてゆくと、今度は鏡売りの前でひと悶着が起きている。見れば、店の前で先刻の折り目正しい若者が店主に押さえつけられ、もがいていた。

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