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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

「一体、どうしたんですか?」
 キョンシルの問いに、三十そこそこの店主が顔色を変えて言った。
「どうしたもこうしたもねえよ。こいつ、見かけは金持ちの坊ちゃんの癖に、うちの品物に手を出そうとしたんだよ」
 つい先刻、幼い子どもに他人の物を盗んではいけないと諭し、自分の財布ごと有り金残らず与えた男が盗みを―? 俄には信じがたい話である。キョンシルは訝しみながらも、若者に問うた。
「若さま、本当に鏡を盗もうとしたのですか?」
「違う、私は盗んでなどいない。ただ、あの鏡をそなたに与えてやりたくて」

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