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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第13章 第三話 【むせび泣く月】 出逢いはある日、突然に

 まだ十二、三の子どもは薄汚れた木綿の上下に身を包み、涙を流していた。しかし、若者は満身創痍ながらも微笑み、優しく応えている。
「私のことならば心配するには及ばぬ。そなたの方こそ、何もなくて良かった」
 〝おいで〟と声をかけ、若者は子どもを手招きする。子どもが恐る恐る近寄ってくると、若者は袖から小さな巾着を取り出した。薄桃色の巾着は財布らしく、膨らんでいる。やはり、かなりの金持ちの息子なのだろう。
「そなたが盗みまでして欲しかったのは、これなんだろう? だが、もう二度と他人の物を盗もうなどと考えてはいけない」
 若者は巾着を子どもに握らせた。

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