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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第11章 第二話 【はまなすの咲く町から】 真実

 更に時間が流れた。そろそろ夜半過ぎだ。幾ら何でも遅すぎる。もっとも、トスが今夜はもうここに戻ってこないつもりであろうことも十分予測できた。が、キョンシルはそれ以上、居ても立ってもいられなくて、ついに立ちあがった。
 扉を開けて、夜の底に沈む境内地へと歩き出す。ホロホロとミミズクが啼く声が侘びしげに響き渡り、心細さをいっそう募らせた。
 心当たりを順に回って、本堂の手前まで来たときである。人声が確かに聞こえたような気がして、闇の向こうに眼を凝らした。
 そういえば、今宵は満月であることに改めて気づく。清(さや)かな月明かりが地上のありとあらゆるものを照らし出し、寺の屋根瓦が銀の波を連ねたように輝いて見える。

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