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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

「ごめんなさい。やっぱり、嫌よね。あの日の話は。もう、止めましょう」
「いや」
 意外にも、低いけれど、はっきりとした応えが返ってきた。
 キョンシルは眼をみはった。
 トスはまだわずかに固さを残したものの、うっすらと笑んでいる。
「あの日を乗り越えなければ、俺は前には進めない。いや、俺だけではなく、そなたもだ、キョンシル。俺たちにとって、ミヨンはかけがえのない大切な存在だった。だが、その死に拘るあまり、進むべき道や未来を見失ってしまうのは愚かなことだし、ミヨンもそんなことは望まないだろう。俺もそなたも、一歩前へと踏み出す時期が来ているんだよ」
「―確かにトスおじさんの言うとおりだわ」
 キョンシルは頷いた。

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