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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第3章 旅立ち

 トスが小さく笑い、キョンシルも笑顔で頷いた。
「それにしても、凝った作りだな。この首飾り一つで、庶民なら半年は遊んで暮らせそうだ」
 トスの声につられ、キョンシルは手のひらに乗せた首飾りを見た。やや小振りな翡翠が連なった中央に、ひときわ大きな滴型の玉が垂れ下がり、その玉には牡丹と蝶が精緻に刻み込まれている。
「あの日、お母さんが倒れたときに、これを渡されたの」
「―」
 トスの表情が一瞬、固くなった。
 キョンシルは胸が苦しくなる。それほどまでに、トスの整った面には深い苦悩の色がありありと宿っていた。

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