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短編集

第9章 「マンホール」

「い、いらっしゃい。ようこそ…」

なんだか間抜けだが、他に言うことが思い付かなかったので、俺はこう言ってみた。

少し声が上擦ってしまった。

驚いてポカンとしていた女の子は俺の言葉で我に帰ったようだ。

「なにこれ?なに?誰、あなた!ここで何してるの?なんなの、これ!」

女の子は混乱してわめきたてた。

当たり前だろう。

マンホールに落ちただけでもあり得ないのに、落ちた先におっさんが待っていたのだから。

(ちなみに俺は自分をお兄さんと呼ぶほど厚かましくない。え?お兄ちゃんの方が変態ぽくて合っている?勘弁して下さいよ、お客さん…)

騒ぎ立てる女の子に俺はトムクルーズばりにチューをして口を塞いだ…わけもなく、女の子が静かになるまで待っていた。

残念ながら俺はトムクルーズじゃあない。

マンホール内は女の子のわめき声がキンキンこだまする。

息の続く限りわめいた女の子は、はあっはあっ息を切らせて静かになった。

いろいろ無礼なことを言われた気もするが、気にはならない。

だって、うっすら香水のいい匂いがしていたし、興奮して汗ばんだ女の子は色っぽく見えたし。

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