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背中のチャックが閉められない

第1章 背中のチャックが閉められない…

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「あ…」

 背中のチャックが閉められなかった…

「っ……」
 あと少しなのに、どうしても手が届かない。

「はぁぁ…」
 鏡の前で腕をねじり、わたしは小さくため息をついた。

 ワンピースなんて、柄じゃないと思っていた…
 でも今日は、会社の同期の結婚式。  

 久しぶりにちゃんとした服を着て、髪も巻いて、慣れないピンヒールまで準備した…
 なのに最後の最後で、背中のチャックだけが閉まらない。

 部屋は静か――
 微かに聞こえるエアコンの音。  
 遠くを走る車の音。  

 それだけ…

 ついこの前なら、こんな時は後ろを向くだけでよかった。

『ちょっと動くなよ』
 そう言いながら、彼が笑ってチャックを上げてくれる。

 三ヶ月前まで、男と暮らしていた――

「ふぅぅ…」

 別れた理由は…
 今となっては、もうよく分からない。

 決して大きな喧嘩とかじゃなかった――

 ただ少しずつ、会話が減っていき…
 お互いに気遣いが減り…
 気づけば、同じ部屋で別々の方向を向いてしまっていた。

 わたしは姿見を見る…

 中途半端に開いた背中が、妙に心細かった。

「…なんか寂しいな……」
 さっきまでは、思いもしなかった…
 心の奥にしまい…
 忘れ、いや、忘れようとしていた。

 それが、声にすると、余計に響く――


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