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今宵だけは~秘められた人妻との密会

第1章 潮時(1)

「もう、終わりにしませんか?」

LINEで突然、女からそう告げられた。 結婚してから、妻以外の何人かの女性と肉体関係を結んだが、女の方から別れ話を切り出されるのは、これで二度目である。 不倫が行き着く最終地点は「別れ」。

女性から切り出す別れ話は頑丈にできている。男が何と言い訳を重ねようとも、「別れる」という結果が覆ることはほぼない。女はその答えを出す前にしっかりと考え、その答えが正しいと確信を得てから告白する。 だから、そこには気持ちの揺らぎというものが一切ない。

一方、男は駆け引きをしたがる。しかし、女にはそういう駆け引きという選択肢はない。 女の「別れたい」という言葉に男への情の入る隙間は1ミリもない。何があっても、ラストシーンは「別れ」しかないのである。 恋愛という形の中では、いつも恋をしたほうが負けなのかも知れない。

女の名前は有香。僕と有香との初めての出会いの場所は、息子が通う小学校の体育館だった。同じ年齢の子供が通う小学校のバドミントンサークルで、僕たちはたまたま同じ時期に入部した。

「綺麗な女性だな」。

それが僕の第一印象だった。それから時は流れ、その気持ちは「好き」という気持ちに変化していった。その気持ちは、有香が僕を好きになってくれる前に明確に存在していた。

一方で好きになられた方は、恋愛の起点が相手よりも曖昧であるが故に、現在進行形の恋愛の輪郭がボヤケてしまい、そこに一点の明確な焦点が結べない。だから、その恋愛に対するオマージュは好きになった方よりもより淡いものである故に、作り上げた恋愛をあたかも粘土を潰すように壊すことは簡単にできてしまう。

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振り返ると、有香とは知り合ってからの3年間の中で、肉体関係は1年ほど続いた。短い間だったが一つ一つの思い出をはっきりと思い出すことができる。

梅雨時特有の風を伴わないまっすぐな雨。肌に感じる空気は湿気を含み、いやがおうにも鬱な気分になってくる。あの爽やかな夏空を待って久しいが、いまだに梅雨明け宣言は出ていない。

「会って話をしませんか?」 と僕は有香を久しぶりにデートに誘った。断られる、ドキドキしながら答えを待ったが、彼女の答えは、いいわよ、だった。

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