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蜜会…春の嵐

第1章 春の嵐

 5

 その脚からは、彼の熱さが静かに伝わり…
 あの頃を想い浮かべ、身体が火照ってしまう。
 
 だけど…
 彼の真意がよく分からない。

 それは…
 果たしてわたしの思いよがりなのか、それともただの戯れ事なのか…

「颯太ぁ、みんなあっちに居るから行こうぜ」

「あ、うん…」
 彼は奥のテーブルへと連れて行かれてしまった。

 カラダの呪縛が解かれ…
 スーっと心が軽くなり…
 だが…
 心の熱はそのままであった。

「ふうぅ…」
 わたしは小さく吐息を漏らし…
 胸の騒めきを冷ます為にも、ビールを一気に飲み、それにより、心の熱が少し冷えたのだが…
 簡単には落ち着かない。

 そして気分転換しようと、会場内に響き渡る再会の嬌声や歓声を背にし…
 トイレへと向かう。

 一歩外へ出ると、それまでとは打ってかわり、ホテルの廊下は静かであった。

「はぁ、ふうぅ……」
 そしてトイレは尚、静かで、昂ぶりをゆっくりと鎮めてくれる…

「ぁぁ……」
 用を済ませて手を洗い、化粧直しに鏡を見る。

 あぁ…
 一人勝手に舞い上がった高揚気味の目が映り、呆れ、自虐してしまう。

 だが、再燃してしまった愛の余韻は、そう簡単には消す事ができそうもない。

 それだけは、どうにもできないわ…

 そう思い浮かべ、鏡に映る揺らぐ目を見つめ…
 自虐に歪む唇に、艶やかな口紅を塗っていく。

 そして今夜、指輪を外した所以である、ここ数年の冷え切った夫婦生活の迷走が…
 ふと、心に思い浮かんできた。

 もう、どうにもできるわけでもないし…
 
「ふうぅ…」
 
 その自ら欺瞞の想いはため息と共に吐き出し、

 今夜は彼が居るんだから…

 なんとか気持ちを奮わせて、トイレを出る。

「あっ」

 なんと…

 彼が立っていた………
 
 


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