アシスタントで来ただけなのに…!
第1章 鬼才漫画家、市川ルイ
まだ夢心地に浸っている私を気に留めた様子もなく、先生は先ほど座っていた椅子を向けた。
「座って」
「はい…って、え?」
椅子はデスクの前のこの一つしかない。
部屋を見渡してみても、椅子はこれだけしかない。
「あの…先生はどちらに座るんですか?」
「僕は床で構わない」
「っえ!?いやいや!先生が椅子に座ってください!」
「私が床に座ります!」
私はどうぞどうぞと言わんばかりに椅子を先生の方に向けた。
面接官が床に座るだなんて、前代未聞すぎる。
「そうか、ならそうしよう」
私は失礼しますと静かに呟いて、冷たい床に正座した。
そんな私を見下ろすように先生は椅子に座った。
なんておかしな光景だろう。
尊敬する漫画家本人との面接だけでも聞かないのに、床に座って面接をするなんて…。
先生はデスクの上の書類をいくつか眺めている様だったが、私は緊張のあまり膝の上で強く握る自分の拳を見ていた。
「須藤加奈子だったな」
「は、はい!」
パッと顔を上げると、先生が書類を持って私を見下ろしていた。
書類はおそらく私が送った履歴書だと思われる。
「年齢は22歳…新卒だな」
「は、はい。今年卒業したばかりです」
「なるほど…」
面接の雰囲気が流れ込んできた。
私はピンと背筋を伸ばして、次は何を聞かれるのか待ち構えた。
面接の練習はそれなりにしたので、自身はあったがやはり緊張が勝ってしまい、頭が真っ白になりそうになる。
「身構えているようだが別に大したことは聞かない」
「僕の質問に答えてくれ」
私を見下ろしながら単調に話した。
「分かりました、よろしくお願いします」
ふと、ある違和感を感じた。
先生は先ほどから自分のことを“僕”と言っている…。
「あの、市川先生…質問の前にいいですか」
「ん、なんだ」
「その、失礼を承知で聞きたいんですが…」
「先生は、女性ですか?」
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