アシスタントで来ただけなのに…!
第1章 鬼才漫画家、市川ルイ
地図に書かれたS市に到着した。
電車から降りて周りを見渡す。
長閑な場所だ。電車に揺られながら眺めていた景色は小さな建物やビニールハウスに畑ばかりだった。
S市は私が住んでいる市のすぐ隣だった。
すぐ隣の地域なのに雰囲気はかなり田舎だ。
「私の住んでる所とは全然違う」
見慣れない土地をぐるりと見渡し、黒いビジネスバッグから地図を取り出す。
地図には事務所まで赤く道が記されてあり、とりあえずそこまで向かう。
「それにしても…市川先生の事務所近すぎない…?」
だって私が住んでいる市のすぐ隣だ。
これからの面接のことで頭がいっぱいだったが、いざ電車に乗り、
たったの一時間で着いたこの距離あまりにも近すぎる。
「こんなに近い距離にいたなんて…」
と、そんなことを考えていたが今から面接だ。
頭と心臓は破裂しそうなくらい緊張している。
「あぁ、やばい。落ち着け落ち着け」
頬を軽く叩いて、足を進める。
面接の内容を考えつつ、特に志望動機は練習通りにと頭の中で繰り返していると、
地図の赤く記された線がぐねっと曲がっていることに気づいた。
「…ん?これは…道を外れるということ…?」
そしてその道は私が立っているすぐ横だった。
なんとその道は、歩道とは全然異なった、山道への入口のような所だった。
「え?ここを進むの?」
何度も確認したがこの先らしい。
確かに数日前にスマホのマップで確認はしていたが、森林の中の集落のような所だった。
しかし、森林の中だからかその先は読み込めなかった。
「…行くしかない!」
ゴクリと唾を飲み込み、足先を細くて茶色い道に向けた。
一歩踏み入れて先に進む。
奥に行けば行くほど、青い空が覆われるくらいの木の葉が広がる。
自然の匂いがする。
歩いてみればどんどん道が開けて、明るい森に囲まれているようだ。
「なんだ、全然明るくて長閑な雰囲気」
周りを見渡しながら歩いていると、小さい頃の遠足を思い出す。
「懐かしいなぁ…なんかいい所かも」
この先に事務所というのはかなり違和感だが、静かに作品を手掛けている市川ルイにはなんか似合うような気がした。
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