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自殺紳士

第20章 Vol.20:まみこ

☆☆☆
「・・・探しましたよ」

都内のカフェ
二人掛けの席にひとり座る女性の前に、青年が座る。

もしも、先日の出来事を覚えている人がいたのなら、
黒いワンピースの女性は、あの日確かに階下に落下して死んだはずの人、
 そして、青年はそれを助けようと駆けつけた者であることに気づいただろう。

この二人を覚えていられる人が存在すれば、であるが。

「あら、あなた・・・。どういうことかしら・・・」
黒い服の女は少しものを考えるように視線を右に流す。

「単刀直入に聞きます。あなたは何者ですか?」
青年は油断なく女性を見つめているように見える。
 その言葉は静かではあるけれども、その後ろに怒気を秘めているように思えた。

女性はその言葉には興味がないようで、
それでもしばらく考えていたけれども、
不意にひとつの答えにたどり着いたようだった。

ああ、と得心したように笑う。

「あなたも間(はざま)の人ね?」
「間の人?」

ふふっ・・・と女性は声を漏らした。
冷め始めたコーヒーを一口飲み、ゆっくりとカップを置いた。

「何者って聞いたわね?
 多分、私はあなたと同じ者・・・よ。
 死なず、疲れず、記憶に残らない。
 この世とあの世の間に堕ちた人間」

ひゅっと青年が息をつまらせた。

怒りが、喉をつまらせる。
瞳がゆらっと涙で震えた。

「だ・・・だったら、なぜ!?
 なぜあなたは、あの男性を連れて・・・っ」

必死に自己を押さえて、絞り出すように出した声は、
それでも隠しきれない怒りに震えていた。

「あら?どうしてそんな事を言うの?
 だって、あの人、死にたがっていたでしょう?
 親に頭を下げて浪人して、恵まれない能力を振り絞って、
 挙げ句、入社した企業は超ブラック、
 こき使われて、毎日のように口汚く罵られて、
 命がすり減って、すり減って、
 だから、私が救ってあげようと・・・ね?」

女は、真っ赤なルージュを引いた口元を三日月のように歪ませて笑う。

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