
幸せな報復
第23章 田所恵美と後ろのエルザの出現
義美の人格形成は、養父・宗男から向けられた歪んだ愛情に大きく支配されていた。
幼い義美にとって、宗男は世界そのものだった。学校へ通うこともなく、社会との接点も持たない彼女にとって、外の男を知る機会はなかった。だからこそ、宗男の振る舞いこそが「男」という存在なのだと、自然と思い込まされていった。
宗男は、義美に依存させる術を知っていた。
お前だけが特別だ。
お前だけが俺を理解してくれる。
そんな言葉を繰り返しながら、義美を外の世界から遠ざけていく。
沢子を死に追いやったことにも、海星の言いなりになっていたことにも、宗男は罪悪感など抱いていなかった。ただ、自分に都合のいい居場所だけを守ろうとしていた。
思春期を迎えた義美は、宗男から奇妙な愛情を注がれるようになった。
それは父親としての愛情ではなかった。
だが義美には、それが異常なのかどうかすらわからない。比較する相手がいなかったからだ。
宗男は身体の仕組みを教えると言いながら、義美を裸にさせた。肌に触れ、耳元で囁き、ときには舌を這わせながら説明を続ける。
義美は拒まなかった。
嫌ではなかったからだ。
むしろ、その時間だけは宗男が優しかった。閉ざされた家の中で、自分だけを見てくれている気がした。
安心していた。
触れられるたび、身体の奥から力が抜けていく感覚があった。義美はそれを「愛されている」ということなのだと思い込んでいた。 だが、その歪みこそが、けだもの族の血を静かに目覚めさせていく。
宗男自身は知る由もなかった。自らの欲望が、数万年ものあいだ眠り続けていたけだもの族の本能を呼び起こしていたことを。
義美への“教育”は、やがて完全形態――恵美を生み出すための土台になっていった。
義美は、母・沢子が武術を使えたことを知っていた。
それほどの力を持ちながら、なぜ母は死を選んだのか。幼い義美には理解できなかった。 沢子は最後まで、自分たちがけだもの族の末裔であることを娘に伝えなかった。
宗男に尋ねても、返ってくるのは曖昧な答えばかりだった。自分は沢子と義美を小椋邸から連れ出しただけだ、と。
だが恵美の成長を見守るうち、義美は薄々感じ始めていた。
自分たちは、人間とはどこか違うのではないか、と。
幼い義美にとって、宗男は世界そのものだった。学校へ通うこともなく、社会との接点も持たない彼女にとって、外の男を知る機会はなかった。だからこそ、宗男の振る舞いこそが「男」という存在なのだと、自然と思い込まされていった。
宗男は、義美に依存させる術を知っていた。
お前だけが特別だ。
お前だけが俺を理解してくれる。
そんな言葉を繰り返しながら、義美を外の世界から遠ざけていく。
沢子を死に追いやったことにも、海星の言いなりになっていたことにも、宗男は罪悪感など抱いていなかった。ただ、自分に都合のいい居場所だけを守ろうとしていた。
思春期を迎えた義美は、宗男から奇妙な愛情を注がれるようになった。
それは父親としての愛情ではなかった。
だが義美には、それが異常なのかどうかすらわからない。比較する相手がいなかったからだ。
宗男は身体の仕組みを教えると言いながら、義美を裸にさせた。肌に触れ、耳元で囁き、ときには舌を這わせながら説明を続ける。
義美は拒まなかった。
嫌ではなかったからだ。
むしろ、その時間だけは宗男が優しかった。閉ざされた家の中で、自分だけを見てくれている気がした。
安心していた。
触れられるたび、身体の奥から力が抜けていく感覚があった。義美はそれを「愛されている」ということなのだと思い込んでいた。 だが、その歪みこそが、けだもの族の血を静かに目覚めさせていく。
宗男自身は知る由もなかった。自らの欲望が、数万年ものあいだ眠り続けていたけだもの族の本能を呼び起こしていたことを。
義美への“教育”は、やがて完全形態――恵美を生み出すための土台になっていった。
義美は、母・沢子が武術を使えたことを知っていた。
それほどの力を持ちながら、なぜ母は死を選んだのか。幼い義美には理解できなかった。 沢子は最後まで、自分たちがけだもの族の末裔であることを娘に伝えなかった。
宗男に尋ねても、返ってくるのは曖昧な答えばかりだった。自分は沢子と義美を小椋邸から連れ出しただけだ、と。
だが恵美の成長を見守るうち、義美は薄々感じ始めていた。
自分たちは、人間とはどこか違うのではないか、と。

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