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幸せな報復

第21章 義美の生い立ち

 二番目に生まれた義美の出生届を、沢子はついに提出しなかった。そのため義美には戸籍も住民票もなく、社会の中で存在しない子どもとして扱われることになった。
 本来なら、沢子は娘にまともな教育を受けさせたかった。普通の家庭がどんなものか、知ってほしかった。
 だが宗男は、義美の存在を海星から隠すためにも、届けは出さないほうがいいと言い張った。沢子には、それに逆らうだけの力がなかった。
 義美の外出は、山口家の買い物に付き添う程度だった。家と近所を往復するだけの毎日。友だちもいない。話し相手もいない。
 必然的に、義美は家の中で過ごす時間が長くなった。成長するにつれ整っていく娘の美しい肢体に、宗男の視線は次第に執着を帯びていった。
 沢子は、その変化に気づいていた。だが止めることはできなかった。
 いや――止めるという発想そのものが、いつしか薄れていたのかもしれない。
 けだもの族は、異様なまでに美を重んじる種族だった。醜い本能を抱えながら、外見だけは誰よりも美しくあろうとする。幼い頃から体を鍛え、均整の取れた肉体を理想とした。 義美が美しく育ったことを、沢子はどこかで誇らしく思っていた。
 それと同時に、宗男に気に入られていることに安堵している自分もいた。
 宗男に愛されていれば、少なくとも捨てられない。殺されない。
 沢子はかつて、四人いた家族を海星にあっけなく奪われた。自分だけが辛うじて生き残り、その後も長く支配され続けてきた。
 だからこそ、愛されることは生き延びることだと、いつしか信じ込んでいた。
 娘には普通の人生を歩んでほしい。そう願いながらも、沢子は結局、自分と同じ価値観を義美に押しつけていた。
 宗男の行為を拒まず受け入れている義美を見て、沢子はむしろ安心した。
 義美には、けだもの族の能力が確かに受け継がれている。

――この子なら、生き残れる。

 そう思えたことだけが、沢子にとって唯一の救いだった。

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