幸せな報復
第21章 義美の生い立ち
座敷牢の隅で膝を抱え、沢子はじっと息を潜める。
けれど――廊下の向こうから足音が聞こえた瞬間、全身がびくりと強張った。
「……来た」
恐怖で喉がひりつく。逃げたい。顔も見たくない。触れられたくもない。
そう思っているはずなのに、沢子は自分の体が別の生き物のように反応するのを感じた。
ぞわり、と背筋が震える。
過去に刻み込まれた感覚が、意思とは無関係に呼び覚まされていく。
「やめて……」
かすれた声が漏れる。だが、その言葉とは裏腹に、体は逃げるどころか硬直して動かなかった。
そんな自分が、たまらなく醜かった。
海星が来るたび、沢子は自分の中に何か別のものが育っていくような錯覚に襲われる。 人間らしい理性や羞恥を押しのけ、本能だけが膨らんでいくような感覚。
自分はもう壊れてしまったのではないか。 元の自分には戻れないのではないか。
そう思うたび、胸の奥が冷たく沈んでいく。
「あんな奴を……少しでも求めるなんて……」
吐き気がした。
自分自身に対して。
海星への憎悪は少しも消えていない。むしろ日ごとに濃くなるばかりだ。
だからこそ沢子は思う。
この穢れた自分ごと終わらせるしかない、と。
死んでなお怨念となり、あの男に報いる。
それだけが、今の沢子をかろうじて繋ぎ止めている最後の意志だった。
海星から逃れた沢子だったが、心だけは自由になれなかった。
夜になるたび、脳裏によみがえるのは、あの日々の記憶だった。逃げ出したはずなのに、身体に刻み込まれた感覚だけが消えない。
「どうして……こんなふうになってしまったの……」
鏡に映る自分を見るたび、沢子は吐き気を覚えた。
娘の義美が何も知らず笑う姿を見るたび、胸の奥に黒い罪悪感が広がっていく。
けれど――廊下の向こうから足音が聞こえた瞬間、全身がびくりと強張った。
「……来た」
恐怖で喉がひりつく。逃げたい。顔も見たくない。触れられたくもない。
そう思っているはずなのに、沢子は自分の体が別の生き物のように反応するのを感じた。
ぞわり、と背筋が震える。
過去に刻み込まれた感覚が、意思とは無関係に呼び覚まされていく。
「やめて……」
かすれた声が漏れる。だが、その言葉とは裏腹に、体は逃げるどころか硬直して動かなかった。
そんな自分が、たまらなく醜かった。
海星が来るたび、沢子は自分の中に何か別のものが育っていくような錯覚に襲われる。 人間らしい理性や羞恥を押しのけ、本能だけが膨らんでいくような感覚。
自分はもう壊れてしまったのではないか。 元の自分には戻れないのではないか。
そう思うたび、胸の奥が冷たく沈んでいく。
「あんな奴を……少しでも求めるなんて……」
吐き気がした。
自分自身に対して。
海星への憎悪は少しも消えていない。むしろ日ごとに濃くなるばかりだ。
だからこそ沢子は思う。
この穢れた自分ごと終わらせるしかない、と。
死んでなお怨念となり、あの男に報いる。
それだけが、今の沢子をかろうじて繋ぎ止めている最後の意志だった。
海星から逃れた沢子だったが、心だけは自由になれなかった。
夜になるたび、脳裏によみがえるのは、あの日々の記憶だった。逃げ出したはずなのに、身体に刻み込まれた感覚だけが消えない。
「どうして……こんなふうになってしまったの……」
鏡に映る自分を見るたび、沢子は吐き気を覚えた。
娘の義美が何も知らず笑う姿を見るたび、胸の奥に黒い罪悪感が広がっていく。
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