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恋、しません?

第1章 第一話 男友達の家政婦致します

「もう片方のハンドルに菊子の荷物を下げて」と雨は言う。
「いや、でも、そんな事をしたら……」
 そんな事をしたら菊子は手ぶらになってしまう。
 それは流石にいかがなものかと菊子は思った。
 雇い主である雨に買い物の荷物を運ばせて自分は手ぶらだなんて。
 戸惑う菊子に雨が「菊子はお菓子の袋を持ってくれたら良いから」と言う。
「えっ」
 重たい物は全て男に任せ、軽い荷物を持つことに甘んじる。

 さっきは男を立てる、とか思ったけど、何か百パーセントそういう感じになるの、嫌だ。

「ガキの使いじゃあるまいし、大丈夫です。お気遣はありがたく頂戴致しますが、あまり舐めないで下さい。私はこの荷物から家に着くまで手を離しませんからね!」
 そう言うと菊子は雨を追い越して、すたすたと先を歩き出した。
 後ろで雨の、ふふっと言う楽し気な笑い声が聞こえる。
 菊子は頬を膨らましながら、ずんずんと進んだ。
 やがて菊子に追い付いた雨が菊子の隣に並ぶ。
 菊子が横目で雨の顔を見てやると、雨は何故か清々し気げな表情をしていた。

 何よ、気持ちよさそうな顔しちゃって。

 菊子の頬がさらに膨らむ。

 こんな男に恋なんてするもんですか!

 菊子の足が早まる。
 そのスピードに雨が合わせる。
 菊子は更に歩く速度を速める。
 雨の車椅子のスピードも上がる。
「目黒さん、私、絶対にあなたに恋愛感情なんて抱きませんから!」
 もはや駆け出す勢いの菊子は雨の顔を見ずにそう言った。
「俺も菊子に絶対に恋愛感情は抱かないよ」
 のんびりとした声で雨が言う。
「はぁ、さようですか!」
「うん」

 桜が風に舞う。

 桜の花びらが二人に落ちる。

 薄紅色の花弁。

 たった今、恋に落ちない二人を柔らかな花びらが淡く染めた。




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