
方位磁石の指す方向。
第5章 scene 5
「一緒に、帰ろっか…?」
「あ、はい…」
秋になったからか、
日が落ちるのが早い。
すれ違う名前の知らない人々が
急ぎ足なのは多分そのせいも
あるんだと思う。
…みんな、大切な人がいて、
大切な家族がいて、
胸を焦がしているんだろう…。
今の俺みたいに。
数歩先に歩く二宮の後ろ姿を
見つめ、息を吐いた。
…あぁ、もう吐く息さえも
白くなったんだな。
そんなことを思ったら
人肌が恋しくなって。
「二宮、」
「んー?」
くるりと体を反転させた
二宮を抱き締めた。
「っわ、どーしたの?」
「…さみぃから。
もーちょっとこのまんまで
いさせて…」
二宮の首に顔を埋めて、
右手を優しく握った。
「…ふふ、今日の翔さん、
なんかすっごい素直。」
「悪い?」
「…心臓にね、」
にへっと笑い、
潤んだ瞳をこっちに向けた。
「…俺も心臓に悪ぃよ」
「っ、バカ……もう…」
背中に回された
二宮の腕。
それに独占欲が湧いてきて、
塀に二宮の体を押し付けた。
「しょ、さ…?っ、ん、」
無理に唇を押し付けて、
舌を入れた。
「んっ、んん、」
目をうっすらと開ければ、
二宮も開けてたみたいで。
潤んだ瞳がこちらを
見ていた。
「…は、ぁ、」
苦しくなったのか、
胸板をとんとんと叩く二宮。
そんな仕草も
可愛くて。
…優勝したら、この先……。
「…帰ろっ…か。」
「ん、」
甘酸っぱい、
寒い2人きりの帰り道。
