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方位磁石の指す方向。

第5章 scene 5






「えっ…?」
「ごめん、ほんとごめん。
部活休めねえわ。その日。」

「そ、か。」

「ごめんな。」



いや。別に。
期待してたわけじゃない。

でも。
ほんのちょっとだけ
思ってたんだ。

部活なんかより、
俺の方を優先してくれる──…

心のどこかで
そう思っていたんだ。


…でも、
そりゃそうだよね。

もうすぐ、
翔さんの試合なんだから。
大事な大事な試合。

…うん。
今回は仕方ない。

だってもう、
数えるほどしかないんでしょ?
試合。

俺なんかが、邪魔しちゃいけない。



「…怒ってる?」

「んーん。平気。
その代わり、
文化祭一緒にまわろうよ。」

「おう。」



…そうだよ。
それだけで十分なの。
今の俺は。




「二宮、まだ食うの?」

「いいの!
あとクレープとたこ焼きと…」

「食いすぎだろ。」

「…いいでしょ。」


文化祭当日、
俺は翔さんと一緒に
食べ歩き回ってた。


「…んー、これ美味しい。
翔さんにもあげる。」

「ん、」


…あ、間接キスだ。
とか思いながら、
クレープを押し付けた。


「あ、うま。




…和也の味がする。」


なんて、
耳元で言われた。


「え、えっち…」


多分今、顔真っ赤だ。

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