
今日も明日も
第70章 見えない鎖 Ⅷ
マズイ
これ以上この声を聞くのは絶対にマズイ
耳を塞げば良いのは分かってるのに、何故かそれが出来ない
赤い顔で首を緩く振るかずくんから目を離せない
理性と感情が、噛み合わない
“感じてる“ その顔が見たい
見たら自分が抑えられなくなるのも気付いているくせに、理性よりも感情が上回る
…だからヤバいんだって
うっすら涙を溜めて、時折唇を噛み締めたり
耐えきれずに漏れる甘い吐息なんて目の当たりにしてたら
俺のちっぽけな理性なんかあっという間に飛んで行っちゃう気がするんだから
どうしよう
風呂場かトイレにでも逃げようか
何でもないフリをして、今ここを離れるのが一番ベストかもしれない
どうせ外になんか出られないし
かずくんから少し意識を外せば済むだけなんだから
そう思って、ゆっくり椅子から立ち上がろうとした時
「まーく…、ぁ…っ」
まるで図ったかのようなタイミングで吐息と共に名前を呼ばれて
その瞬間、俺の中の何かが崩れた気がした
