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今日も明日も

第64章 見えない鎖 part Ⅴ


「まーくん…」

弱々しい声
だけど、潤んだ瞳は真っ直ぐに俺を捉えている

「俺は、かずくんの嫌な事はしない」
“そんな事、したくない“

その目をしっかりと見つめた俺も、何だか泣きそうになってきた

「抱き締めて…いい?」
もう一度問いかけると

「…はい」

かずくんは小さく、…だけどしっかりと頷いてくれた


「ありがとう」

怖がらせないようにふんわりと

包み込むようにその華奢な体に腕を回す


「…まーくん、の、匂い」

顔は見えないけど、目に見えて段々と震えが治まっていったかずくんが小さく呟いた


ああ、そう言えば

高熱を出した時、俺のシャツで安心してくれたんだっけ

いきなりでなければ、かずくんは俺を拒否はしない

むしろ受け入れてくれている

今さらそれに気付く俺は本当バカだ



暫く抱き締めていたら、ご飯の炊けたメロディーが鳴り響いた

いつ腕を離したらいいのか迷ってたから、この音に助けられた

「炊けたみたいだね」

かずくんからゆっくりと体を離す

“おかず、作るね“
立ち上がってシンクに向かった俺を

かずくんはじっと目で追っていた


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