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プリンス×プリンセス

第21章 底無し沼

それを掲げたまま、厨房の入口で振り返ると

「あ…ジューク」

「何でしょう?」

「蓮の花は沼地じゃないと綺麗に咲かないのよ?」

「は…」

突然、何を言い出すのか。

そして、それに対しての返しが思い付かない。

ボウルとスポンジを手にしたまま固まってしまうと

「貴方の心にも咲いているのではないかしら?」

ティアナ様は首を傾げてくすりと笑って、厨房から出ていった。

俺はその姿が消えるまでずっと見続けて…呟いた。

「そう来ますか…」

小さく息を吐き、洗い物を済ませる。

クロスで拭く前に、グラスの中身を一気に飲み干した。

グラスの中で氷がぶつかる音が涼やかで小気味いい。

レモネードは思っていたよりも甘かった。

懐かしいような…でも、昔よく飲んだそれとは違う味。

『ジューク、休憩しましょう?』

『一休みしてはいかが?』

同じような労りの言葉。

それはレモネードのように甘酸っぱく、胸に沁みていった。

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