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0時の鐘が鳴る前に

第3章 キラキラ、ふわふわ

「あ、あの!」

立ち止まった私を振り返って、彼は私の言葉を待つ。

「今日の、お礼に……っこれ、貰ってくれませんか?」


2匹をくっつけるとハートの形になるイルカのペアストラップ。

片方を鞄から取り出して、広末さんに差し出す。

お、男の人にプレゼントなんて初めてだ……


沈黙にドキドキしながら彼の顔を見ると、








「………ごめん、受け取れない」








水族館で財布を押しとどめたように

丘の上でパーカーを脱ぐ手を押しとどめたように

彼はストラップを差し出す私の手を、そっと拒んだ。


「あ……す、すみませんっ……調子、乗りました」

受け取ってもらえなかったそれをどうしていいのかわからなくて

私の手は中途半端に宙を彷徨う。

「もう、家すぐそこなので!ありがとうごさいました!」


彼の顔を見ることができないまま、私は早口にそう告げて玄関を目指して走りだす。

後ろから広末さんが何か言っている気がしたけど、振り返る勇気はでなかった。

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