
手紙~天国のあなたへ~
第5章 夫婦
「もう一度、歌ってくれ」
愃に乞われ、留花は同じ歌を繰り返して歌った。その後も〝もう一度、もう一度〟と言われ、彼女は何回も子守歌を歌った。遠い昔、愃が滅多に逢えない母親の膝枕で聞いたという、愃にとっては忘れられない歌。
その歌を歌うのもそろそろ十回目になろうとする時、留花は何げなく声をかけた。
「愃さま、うたた寝をなさっては風邪を引きますよ?」
だが、返事はなかった。愃は留花の膝を枕代わりにしたまま、安らかな寝息を立てていたのだ。
「旦那さまったら」
留花の顔に微笑が浮かぶ。
まるで二歳の幼児に戻ったかのような、安らいだ表情に、見ている留花の方が涙ぐんでしまった。
複雑な過去を背負う愃ではあったが、こうして留花の傍にいるときは、ただの一人の男であり人間に戻れるのだろう。
愃に乞われ、留花は同じ歌を繰り返して歌った。その後も〝もう一度、もう一度〟と言われ、彼女は何回も子守歌を歌った。遠い昔、愃が滅多に逢えない母親の膝枕で聞いたという、愃にとっては忘れられない歌。
その歌を歌うのもそろそろ十回目になろうとする時、留花は何げなく声をかけた。
「愃さま、うたた寝をなさっては風邪を引きますよ?」
だが、返事はなかった。愃は留花の膝を枕代わりにしたまま、安らかな寝息を立てていたのだ。
「旦那さまったら」
留花の顔に微笑が浮かぶ。
まるで二歳の幼児に戻ったかのような、安らいだ表情に、見ている留花の方が涙ぐんでしまった。
複雑な過去を背負う愃ではあったが、こうして留花の傍にいるときは、ただの一人の男であり人間に戻れるのだろう。
