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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

さりながら、私は、その何げないひと言に眼から鱗が落ちたような気がしてならない。留花、私は民があってこその国だと常日頃から考えている。民が貧しさに喘ぎ苦しんでいるのに、上に立つ両班や国王だけが贅に耽り民の苦しみを見て見ぬふりをしていては、やがて国の礎が危うくなろう、民の暮らしが安定してこそ、国もまた立ちゆくものだ。そなたのひと言は私に改めてその真理を教えてくれたのだ」
「―政治や難しい理屈は私にはよく判りませんが、愃さまは普通の両班の方とは違うお考えをお持ちなのですね」
「普通の両班か。留花、今の世の中は、間違った考えが普通になっていて、正しき真理が異端とされる。そなたの言うように、現実として両班の殆どは民の切迫した暮らしに救いの手を伸ばそうとするどころか、考えてみようともしない輩ばかりだ。そんな奴らが大臣になって国政を担っているのだから、この国の先行きも暗澹としている」

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