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Memory of Night2

第3章 名前


「それは一番新しいやつだね。あの人魚のはもう十年以上も前に撮影したものだよ」

「そんなに前なんですか」


 宵はもう一度青に彩られた人魚のポスターを見る。

 ということは、おそらく自分と同じくらいの少女だろうと思っていたこのモデルの子は、もういい大人になっているのだろう。


「綺麗な子でしょう?」


 人魚のポスターを見つめたまま瞳を細め、深津は先ほどと同じ問いかけを繰り返した。

 そうして振り返る。どこかいたずらっぽい瞳が、宵をとらえた。


「……はい」


 なんとなく意味ありげな表情に首をかしげながらも、宵は素直に頷いた。

 その時だった。

 カツカツと、聞き覚えのある音が辺りに響き始めた。ヒールが床を叩く音だ。

 宵と深津が振り返ると、こちらに向かって歩いてくるのはやはり春加だった。


「遅い」


 一言抗議を投げかける。

 春加は軽く宵を一瞥しただけで、そのままロビーを通り過ぎていく。


「残念。せっかく僕が送っていこうと思ったのに、彼女、来ちゃった」


 耳元で囁かれ、宵は顔をしかめる。

 そんなこと一言も言っていない。

 ロビーで写真について話している間は、深津は普通だった。妙なちょっかいを出してくることもなかったのに、と思う。

 ころころとキャラを変えてくる深津に疑問を残しながらも、宵はとっとと先を歩いていってしまう春加を早足で追った。

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