
恋愛短編集
第5章 母さんのオムライス
「こんな夜遅くに申し訳ないな」
そう言って梓は俺のビニール袋を差し出す。
袋の中身は梓の家のイチゴだ。
上から覗くと、真っ赤に熟れた実がたくさん見える。
見ているだけでよだれが出そうだ。
「今日は本当にすまなかった…っ」
そう頭を深々と下げる梓。
もういいのに…てか梓のせいじゃないし。
そう言葉に出来たらどれだけいいだろう。
そう出来ない俺は梓を抱き締めて、頭を優しく撫でた。
伝わるように、精一杯気持ちをこめて。
しばらく撫でていると、梓は俺から離れて目を細めて笑った。
「ありがとう」
気持ちが伝わったのかどうかは分からなかったが、その笑顔、悪い意味ではないだろう。
梓の笑顔につられて、俺もつい笑顔になってしまう。
