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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第4章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 

 しかし、自分の見たあの淫らな夢がもしかしたら、正夢だったのかもしれないとも思えた。いずれにせよ、直輝にあの夜をどこでどう過ごしたかなんて、訊ねる気はさらさらない。
 いや、もしかしたら、自分は怖いのかもしれない。もし夫に訊ねて、あっさりと真実を白状されたら、その時、自分はどのような反応をするのだろう。他の女と寝たと堂々と宣言した夫と一つ屋根の下に暮らせるだろうか?
 応えはNOだ。何事にも潔癖で周囲からはいささか面白くないとまで評される常識家の自分。そんな自分が浮気を認めた夫を許せるとは思えない。今の安定した暮らしを失いたくないのであれば、ひたすら口をつぐんで知らないふりを通すしかないのだ。
 だが、本当のところ、自分は何を望んでいるのだろうか。夫に守られる安穏な主婦としての日々? それとも、直輝自身を失いたくないと思っている? 彼を誰にも渡したくないと思っているのか?
 多分、そのどちらもが本音なのに違いない。自分では認めたくないけれど、この男に愛想が尽きたと言いながらも、心のどこかで自分はまだ夫を愛している。手放したくないと思っている。

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