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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第4章 ♠RoundⅢ(淫夢)♠ 

 また別の男と出逢い、その男を好きになり、新しい家庭を築く。しかも、その選択肢に子どもを持つという夢は付属しない。
 かといって、結婚もせずに一人だけでひたすら歳を重ねていくというのも、あまりに空しく淋しすぎた。それに、三十五にもなった女が何の仕事をして生きていけば良いというのか。
 紗英子は地元のN大の英文科を卒業し、一年間は市役所で臨時職員として働いていた。一年勤務した後、直輝と結婚したのだ。
 つまり、大学を卒業してからは殆どの時間を家庭で過ごしたと言って良い。そんな世間知らずで何の特技も資格もない主婦に何ができる? 
 今から人生をやり直すという煩雑なことをやるくらいなら、少々我慢しても、このまま結婚生活を維持する方がはるかにマシだ。
 忌まわしい夢を見てしまったあの朝、直輝はとうとうマンションには戻らなかった。そのまま出社したようだ。ご丁寧に着替えまで持って出かけたのかどうかは知らないが、帰ってこなかったところを見ると、紗英子の嫌な想像は当たらずとも遠からずなのかもしれない。
 もっとも、酒を飲むだけ飲んでカプセルホテルかビジネスホテルに泊まるという線もあるから、外泊だけで夫が他の女と寝たとは限らないけれど。

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