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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第26章 都の春

 翌朝、香花は自室にいた。妊娠六ヵ月に入り、腹の子は順調に育っている。もう、チマの上からでも丸くなったお腹がそれと判るほど大きくなってきた。
 数日前から、香花は生まれてくる子のために産着を縫い始めた。初めての子は、誰に似ているのだろう。もう顔も朧になってしまった母か、それとも、穏やかで優しかった父か。
 やはり、子は親に似るというから、光王に似るのだろうか。光王そっくりの美しい赤ン坊を腕に抱いている自分を思い描いただけで、何とも満ち足りた幸せな気分になる。
 やがて腕に抱くであろう子の面影を思い浮かべながら、一心に針を動かす。
 と、両開きの扉の向こう、甲高い声が香花を呼んだ。
「少し良いですか」
 この声は、むろん、姑である妙鈴のものである。  

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