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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第26章 都の春

―連れ添う中に愛情と信頼を築く夫婦があっても良いのではないか。
 その科白は、妙鈴の心の奥底に眠る何かを烈しく揺さぶった。
 初めて出逢った時、妙鈴は十六歳、真悦は十八歳だった。端整な面立ちの貴公子は外見に違わず態度もこの上なく紳士的で、その上優しかった。妙鈴は真悦にひとめで心を奪われたのだ。正式に婚約が決まり結納が交わされた日の夜は、嬉しくて眠れないほどで、傍らで眠る乳母に冷やかされものだった。
 まさか、その二年後、祝言を半年後に控えたときになって、真悦が運命の恋人ヨンウォルとめぐり逢うと知りもせずに。
「あなた―、こんな私を許して下さるというのですか?」
 妙鈴の声が、震えた。
 愚かで、嫉妬深くて。それでも、真悦を諦め切れず、今でも愛し続けている愚かな女を。

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