
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第2章 縁(えにし)~もう一つの出逢い~
「明日からは、やはりソンジョルに頼んで、もう少し仕事をさせて貰わなきゃ」
身体を動かせば、自然と疲れて眠りも深くなるはずだ。香花は独りごちて、枕許の水差しから湯呑みに水を注いで、ひと口飲んだ。冷たい水が喉をすべり落ちてゆく感触が心地良く、身体が生き返ったようだ。
それでもう一度布団に潜り込もうとしたその時、かすかな物音が戸外で聞こえたような気がした。
風だろうか、それとも、野良猫か何か?
香花は訝しみながら、立ち上がると、燭台を手に持つ。
香花の部屋は明善や子どもたちが暮らす母家とは少し離れて建つ、独立した建物である。とはいえ、やや広めの座敷が一つと続きの間のふた部屋だけの離れのようなものだが、それでも、こうして一人だけ住まいを与えて貰えるのはありがたかった。
香花は両開きになった扉を細く開け、外の様子を窺う。庭の向こうに沈む母家は既にどの部屋も灯りが消え、深い闇の底に眠っている。どこからかホーホーとミミズクの声が響いてきて、夜の心細さをいっそうかき立てる。
六月半ばとはいえ、梅雨時の夜はまだ夜風は冷たさを孕んでいるようだ。香花は吹き込んできた風にかすかに身を震わせた。
じっと耳を澄ませてみても、物音はもう聞こえなかった。やはり、気のせいに違いない。
そう思い、扉を閉めようとすると、再びカタリという音がした。次いでパキリという細い枯れ枝を踏みしめるような音。
それは、常人であれば、殆ど聞き取れないほどのかすかな物音だったろう。香花は物心ついたばかりの頃から、何故か耳は動物並に良かった。
もっとも、人よりも微細な物音を聞き取れるからといって、何の自慢にもならないが―。
身体を動かせば、自然と疲れて眠りも深くなるはずだ。香花は独りごちて、枕許の水差しから湯呑みに水を注いで、ひと口飲んだ。冷たい水が喉をすべり落ちてゆく感触が心地良く、身体が生き返ったようだ。
それでもう一度布団に潜り込もうとしたその時、かすかな物音が戸外で聞こえたような気がした。
風だろうか、それとも、野良猫か何か?
香花は訝しみながら、立ち上がると、燭台を手に持つ。
香花の部屋は明善や子どもたちが暮らす母家とは少し離れて建つ、独立した建物である。とはいえ、やや広めの座敷が一つと続きの間のふた部屋だけの離れのようなものだが、それでも、こうして一人だけ住まいを与えて貰えるのはありがたかった。
香花は両開きになった扉を細く開け、外の様子を窺う。庭の向こうに沈む母家は既にどの部屋も灯りが消え、深い闇の底に眠っている。どこからかホーホーとミミズクの声が響いてきて、夜の心細さをいっそうかき立てる。
六月半ばとはいえ、梅雨時の夜はまだ夜風は冷たさを孕んでいるようだ。香花は吹き込んできた風にかすかに身を震わせた。
じっと耳を澄ませてみても、物音はもう聞こえなかった。やはり、気のせいに違いない。
そう思い、扉を閉めようとすると、再びカタリという音がした。次いでパキリという細い枯れ枝を踏みしめるような音。
それは、常人であれば、殆ど聞き取れないほどのかすかな物音だったろう。香花は物心ついたばかりの頃から、何故か耳は動物並に良かった。
もっとも、人よりも微細な物音を聞き取れるからといって、何の自慢にもならないが―。
