テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第11章 謎の女

 一体、何があそこまで光王の心を烈しく揺さぶったのだろう。
 別に光王とミリョンが昔、知り合いだったとしても、そんなことは香花には関わりない。
 いや、ミリョンは光王とは初対面だと断言した。あの大人しげな女人が嘘をつくはずもない。だとすれば、やはり、光王のよく見知った誰かにミリョンが似ていたと考える方が自然ではないか。
 光王の知り合い―、香花の知らない昔の彼をよく知る誰か。そう考えただけで、胸の奥がちりちりと灼け焦げるような、ざらついた嫌な気持ちになるのは何故なのか。
 そして、光王の過去を知る人間に苛立つ自分自身をまた不思議に思う香花であった。
 ふいに記憶の海の底から、ある一つの言葉が浮上する。
―お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ。だから、かな。お前から眼が離せなくなっちまったのは。
 まだ知り合ったばかりの頃、確か光王はそんなことを言っていた。香花の中で別々の二つの事柄が重なり合い、一つの推測を導きだそうとしていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ