
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
息子の心の葛藤と衝撃も知らず、正史は良い気になって喋り続ける。
「そなたは誰か、気になっている女はおらぬのか? もし、そのような娘がおるなら、側に置けば良い。正式に妻を迎えるのは科挙に受かってからのことにはなるが、側妾の一人くらいは大目に見てやっても良いぞ?」
知勇の頬が赤らんだのを見、正史はほくそ笑んだ。
「ホホウ、その様子では、意中の女子がおるな。堅物のそなたのことだ、大方、手も出してはおらぬのだろう。よし、儂がひと膚脱いでやろう。靡かぬのならば、ひそかに攫ってくれば良い。ここに連れてきて、そのまま囲えば良いのだ。そなたも平素からよく学問に励んでおるゆえ、こたびは父がその褒美としてその娘を与えてやろう。どこの娘だ、え、言ってみるが良い」
知勇の瞼に一人の少女の笑顔が浮かぶ。
誰よりも心優しく、聡明な少女。黒い大きな瞳をきらきらさせて見つめてくる彼女の花のような笑顔が好きだった。人間に姿を変えた燕のようにある日突然、彼の前に現れ、ひとめで彼の心を奪った美しい娘。
「そなたは誰か、気になっている女はおらぬのか? もし、そのような娘がおるなら、側に置けば良い。正式に妻を迎えるのは科挙に受かってからのことにはなるが、側妾の一人くらいは大目に見てやっても良いぞ?」
知勇の頬が赤らんだのを見、正史はほくそ笑んだ。
「ホホウ、その様子では、意中の女子がおるな。堅物のそなたのことだ、大方、手も出してはおらぬのだろう。よし、儂がひと膚脱いでやろう。靡かぬのならば、ひそかに攫ってくれば良い。ここに連れてきて、そのまま囲えば良いのだ。そなたも平素からよく学問に励んでおるゆえ、こたびは父がその褒美としてその娘を与えてやろう。どこの娘だ、え、言ってみるが良い」
知勇の瞼に一人の少女の笑顔が浮かぶ。
誰よりも心優しく、聡明な少女。黒い大きな瞳をきらきらさせて見つめてくる彼女の花のような笑顔が好きだった。人間に姿を変えた燕のようにある日突然、彼の前に現れ、ひとめで彼の心を奪った美しい娘。
