
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第5章 永遠の別離
そのときだった。
客の間でどよめきが起こった。
「何だ、どうしたんだ」
先刻の二人連れがしきりに後方を気にしている。
眼前の光王が全身に緊張を漲らせるのが判った。光王の纏う空気が一変する。研ぎ澄まされた刃のような危うい閃きがその瞳の奥底で瞬く。
次の瞬間、香花は自分に何が起きたのか判らなかった。光王が突如として香花を引き寄せ覆い被さってきたのだ。
冷たいしんとした唇が押しつけられ、息もできないほど狂おしく口付けられる。
昨夜の出来事が脳裡を駆けめぐり、混乱状態に陥りそうになったが、大きな手のひらにあやすように背を撫でられ、少しだけ落ち着いた。
「チッ、手配中の女によく似た娘をここいらで見かけたって通報があったんだが、何だ、男連れじゃねえか。おい、そんな話聞いてねえな」
いつしか役人が傍らに立って怒鳴っている。
「ああ、子ども連れとは聞いてるが、男連れだとは聞いてないな」
相棒らしき男が頷く。
ウィギルの機転で折角兵の眼を逃れられたのにここで見つかってしまったら、万事きゅうすだ。覚悟するしかないのだろうか。
香花が光王の腕の中で絶望的な想いになった時、女将の声が響いた。
「お役人さま、その手配状に書かれた娘なら、確かにここに寄りましたけど、もう一刻も前に出てゆきましたよ」
「うむ、女将。それで、その娘は小さな子どもを二人連れていたか」
「ええ、一人は女の子でもう一人は男の子でした」
客の間でどよめきが起こった。
「何だ、どうしたんだ」
先刻の二人連れがしきりに後方を気にしている。
眼前の光王が全身に緊張を漲らせるのが判った。光王の纏う空気が一変する。研ぎ澄まされた刃のような危うい閃きがその瞳の奥底で瞬く。
次の瞬間、香花は自分に何が起きたのか判らなかった。光王が突如として香花を引き寄せ覆い被さってきたのだ。
冷たいしんとした唇が押しつけられ、息もできないほど狂おしく口付けられる。
昨夜の出来事が脳裡を駆けめぐり、混乱状態に陥りそうになったが、大きな手のひらにあやすように背を撫でられ、少しだけ落ち着いた。
「チッ、手配中の女によく似た娘をここいらで見かけたって通報があったんだが、何だ、男連れじゃねえか。おい、そんな話聞いてねえな」
いつしか役人が傍らに立って怒鳴っている。
「ああ、子ども連れとは聞いてるが、男連れだとは聞いてないな」
相棒らしき男が頷く。
ウィギルの機転で折角兵の眼を逃れられたのにここで見つかってしまったら、万事きゅうすだ。覚悟するしかないのだろうか。
香花が光王の腕の中で絶望的な想いになった時、女将の声が響いた。
「お役人さま、その手配状に書かれた娘なら、確かにここに寄りましたけど、もう一刻も前に出てゆきましたよ」
「うむ、女将。それで、その娘は小さな子どもを二人連れていたか」
「ええ、一人は女の子でもう一人は男の子でした」
