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夢幻の蜃気楼

第6章 荒廃世界

「……えっ……?」
突然右手を掴まれ、行くぞと言われても急な展開にもちろん頭がついてこれるはずもなく、動揺を隠せない僕はただ馬鹿みたいに狼狽えるしかない。
「いいから行くぞ。こんなとこいつまでもいたら、また面倒なことに巻き込まれるだろ。それともそれを望んでるのかよ?」
口と同時に右手を掴んだまま歩き出す少年。彼に掴まれているから僕もつられる形になる。

足のコンパスが長い彼の歩調に嫌でも合わせなくてはならない状況に、僕は足がもつれそうになるのを必死に耐えながら、流されるままに歩くしかなかった。

強引な彼に付き合わされている状況だけど、でも僕は内心安堵していた。そして彼にひそかに感謝をしていた。
彼は汲み取ってくれたのだ。僕を放置しないでくれた。
態度は傲慢で強引だけど、行く宛もない僕を哀れに感じ、こうして一緒にいてくれる。それは紛れもない彼のさりげない優しさだ。
彼が僕を連れてくれなければ、僕はきっと死んでいた。

まだ彼に対し、恐怖は拭い去れないが、それでも今は繋がれた手の温かさに安心していた。

引っ張られる形で歩く僕は綺麗な彼の顔をちらりと覗きながら、これから先の見えない未来に一抹の不安と、そしておぼろげながらに彼に頼るしかない無力な自分に強く恥じていた。

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