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夢幻の蜃気楼

第5章 違和感

改めて見遣った僕が今いる世界。それはおそらく僕の感覚が間違っていなければ、同じようで違う世界。
なにがどう違うかって一言で述べるなら荒れ果てているのだ。
僕が意識を失う前、つまり石段から落ちる前と今では明らかに違う荒れ具合。廃墟している。まさにその言葉がしっくりしている。どのぐらい気絶していたのか定かではないが、おそらくそんなには経ってないと思う。落ちた時は夜間で、今もまだ真っ暗な夜中。時間の感覚はないが、こんな寒空のした、もし一晩でも気を失ったままでは身体に支障が出てるはずだ。下手すれば凍死してるだろうし……。
だけどこうして動けるということはそんなに時間の経過はないということになる。
一体どうして景色が急激に変化を遂げたのか不明だが、僕が今まで見慣れた景色と違うことは間違いがなく、おそらくだが石段を降りた先にあるはずの、淡い青色したマンションはきっと存在しないだろう。現に今僕が立ち尽くしている先には住宅なんて一軒も建っていなかった。それを認めた瞬間、僕の中に新たに湧き上がる絶望感。




しばらくの間、僕を眺めていた彼だったが飽きたのか、僕に背中を向け、歩き始めた。振り向きざまに僕に忠告を寄越す。
「お前弱いんだから早く家に戻れよ」
興味を失ったような眼差しで見返される。

僕から離れていく彼に、急に侘しさが襲ってくる。というよりは不安が押し寄せてくる。またさっきみたいに悪漢に襲われたらという恐怖が一気に僕を襲う。
「……あ……」
思わず声が出てしまう。けれどそれはあまりにも小さく、風の音に掻き消されてしまうほどの声音だった。

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