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あんなに会いたいと願っていた美しい人が今、俺の目の前にいる。

俺の前に立ち、そして微笑を浮かべた。
「……こんにちは」
薄い唇から奏でた儚げな声に、俺はただ魅入るだけしかできなかった。

そんな俺に不審に思ったのか、微笑から困惑した表情へと変貌した。

「あ、こ、こんにちは！」
慌てて挨拶する。
今まで無言だった俺が急に声をあげたので、彼が正直に驚きを顕わにする。

それでもすぐにまた薄く笑みを湛え、俺の前にあるものを出した。それは俺が昨日渡した黒い傘。いつでも手軽に持ち歩けるようにと折り畳み式の傘だ。
「これを返そうと思って……」
小さく折り畳まれた黒傘を渡そうと手を差し出す。
「ありがとう……。本当は朝返そうと思ったんだけど、時間がなくて今頃になってしまった」
心底申し訳ないと、頭を下げる。
「そんなっ！　俺が勝手に渡しただけですから」
「……でも、おかげで君が濡れる羽目になってしまった。……風邪などひいてない？」
心配気な瞳がまっすぐ向けられる。

その優しい心情が嬉しい。ますます惹かれてしまう。
「俺なら大丈夫です！」
自然とこちらも笑顔になる。
「そう、それを聞いて安心した……」
どこまでも俺を心配してくれる優しい彼に、俺は暖かい気持ちに包まれる。

「とにかく傘……、返すよ。ありがとう……」
俺に差し出された傘を、俺もまた手にする。