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いつもそこには、君がいて

第3章 3 金曜日


 創業祭の準備のため閉店間際までいたバックヤードで電話が鳴った。

「おう、フジコ」

「お疲れ様です」

 声だけで誰かわかる。

「で、どうすんだ?」

 前置きもなにもなく、いきなりか……

 三上さんの言う“どうする”の目的語はもちろん異動のことで、こんなふうに雑な聞き方をしてくる時は“お前からちゃんと話せよ”の合図だということはわかっていた。


「あの……異動、白紙に戻すってできませんかねぇ」

「“できねぇ”っつったら、お前どうすんの?」

 これもあらかた予想どおり。

 筋の通らない話は嫌いな三上さんのこと、私のこんな変わり身をそうやすやすとは認めちゃくれない。

「そこを“無理にでも”って、お願いしたいんですけど」

「へぇ〜、なんで?」

 どう転ぶかはわからなかったが、私は内示が出てからの自分の有様を、三上さんに包み隠さず報告した。

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