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温もり

第13章 九日目

「おい! お前らそいつも洗えつっただろ!?」

 突然の大声に驚いて零九がそちらを見ると、入り口を開けて掃除係に向けて怒鳴っている研究員達の姿があった。手近な所にいた一人を捕まえ、零九を指して「臭い」「徹底的に洗え」などと喚いているのが聞こえる。
 捕まったニニニは散々喚かれた後に突き飛ばされ、罵声を浴びながら、研究員達を睨むだけでそれ以上はしない。手を出せばラディになにを強要されるか判らないからだ。

「タラタラやってんじゃねぇよ! 分かったな!」

 研究員はそう吐き捨て、乱暴に扉を閉めた。
 掃除係達は集まり、ボソボソと何かを話を始め、チラチラと零九の方を見る。
 兄弟を手にかけていた自分が、同じく殺し続けた弟達に命を断たれるのだと、零九は感じる。だが、死ねば研究員達が満足するはずもない、それでは今までニニのために耐え続けた事も水の泡と化してしまう。だが、健康な五人を相手に、満足な抵抗が出来るとは思えない。
 やがて、話が纏まったのか五人が零九に向かって歩いて来る。
 死ぬなら苦しみたくない、死ねるなら死にたい。そんな思いがない訳ではない。だが、それ以上にニニを想うと死ねなかった。
 檻を開け、入って来た五人は零九を囲み、見下ろす。

「……しにた、く、ない……」

 零九は必死に言葉を紡ぐ。命乞いの言葉を。
 彼らは手に持ったボトルの蓋を開け、零九の体に中の液体を落とす。
 それが触れた瞬間、焼ける様な熱さと突き刺さる様な激痛が全身を貫いた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 喉が張り裂けそうな絶叫を上げ、動く手足をバタつかせて暴れる零九に、彼らは容赦なく液体をかける。上げる悲鳴に息が続かなくなり、強烈な痛みに意識が遠のく。目も開けられず、弟達にすらこんな事をされる絶望に心が悲鳴を上げる。
『誰か助けて! 痛い、助けて! ニニ、助けて!』
 それが、零九の本心だった。

 そして、零九は意識を失い、動かなくなった。

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