
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
インスの恨めしげな声がしたかと思うと、ふいに身体がふわりと持ち上げられた。
インスに抱き上げられたのだ。抗議しようにも、あまりにも苦しくて身体中が熱っぽくて、声を上げるのも億劫だ。
凛花はインスに抱き上げられ、座敷に運ばれた。
座敷といっても、さほど広くはなく、一部屋だけの言わば一戸建ての独立した建物である。
女将が敷いた薄い夜具に凛花を降ろし、インスは枕許に座った。
「とにかく身体を楽にした方が良い」
すぐ傍にいるインスの声が遠くから聞こえてくるようだ。ボウとしていた凛花は、やがてハッと現(うつつ)に返った。
インスが身を乗り出すようにして、凛花のチョゴリの前紐を解いている。続いて衿許をくつろげようとするのに、凛花は悲鳴を上げた。
「止めろ!!」
インスに他意はなかったはずだ。ただ、純粋に凛花の身体を心配してくれたからの気遣いだった。インスは凛花が女だと知らない。
それでも、凛花は上半身を起こし、自らの身を守るかのように両腕を身体に巻き付けた。
酔いが急速に醒めてゆくのも手伝い、身体が一転して冷え、寒さを訴えている。が、身体が震えるのは寒さのせいだけではなかった。インスを止めるのがもう少し遅かったら、女だと露見していたと思ったからだ。
「な、何だよ。人が心配してやってるのに。女みたいな金切り声を出すから、愕くではないか」
インスが呆れたように鼻を鳴らした。
「―済まない。身体を触られるのは嫌なんだ」
声が自然と小さくなる。
「良いさ。俺が無理に呑ませたのがいけなかったんだし。気にするな」
インスの分厚い手が凛花の頭をくしゃくしゃとかき回す。
まるで兄が妹にするようなその仕種には、憶えがあった。
―文龍さま。
亡き恋人の笑顔がふっとよぎる。
文龍もよく、こんな風に凛花の頭を撫でてくれた。彼が凛花に対して欲望を表したのは、亡くなる少し前、婚礼の日取りを決めるために凛花の家にやって来た夜、あのときだけだった。
インスに抱き上げられたのだ。抗議しようにも、あまりにも苦しくて身体中が熱っぽくて、声を上げるのも億劫だ。
凛花はインスに抱き上げられ、座敷に運ばれた。
座敷といっても、さほど広くはなく、一部屋だけの言わば一戸建ての独立した建物である。
女将が敷いた薄い夜具に凛花を降ろし、インスは枕許に座った。
「とにかく身体を楽にした方が良い」
すぐ傍にいるインスの声が遠くから聞こえてくるようだ。ボウとしていた凛花は、やがてハッと現(うつつ)に返った。
インスが身を乗り出すようにして、凛花のチョゴリの前紐を解いている。続いて衿許をくつろげようとするのに、凛花は悲鳴を上げた。
「止めろ!!」
インスに他意はなかったはずだ。ただ、純粋に凛花の身体を心配してくれたからの気遣いだった。インスは凛花が女だと知らない。
それでも、凛花は上半身を起こし、自らの身を守るかのように両腕を身体に巻き付けた。
酔いが急速に醒めてゆくのも手伝い、身体が一転して冷え、寒さを訴えている。が、身体が震えるのは寒さのせいだけではなかった。インスを止めるのがもう少し遅かったら、女だと露見していたと思ったからだ。
「な、何だよ。人が心配してやってるのに。女みたいな金切り声を出すから、愕くではないか」
インスが呆れたように鼻を鳴らした。
「―済まない。身体を触られるのは嫌なんだ」
声が自然と小さくなる。
「良いさ。俺が無理に呑ませたのがいけなかったんだし。気にするな」
インスの分厚い手が凛花の頭をくしゃくしゃとかき回す。
まるで兄が妹にするようなその仕種には、憶えがあった。
―文龍さま。
亡き恋人の笑顔がふっとよぎる。
文龍もよく、こんな風に凛花の頭を撫でてくれた。彼が凛花に対して欲望を表したのは、亡くなる少し前、婚礼の日取りを決めるために凛花の家にやって来た夜、あのときだけだった。
