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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

「おい、何故、黙っている? 一体、チルボクの身に何があったというんだ!?」
 ヘジンが無惨な最後を遂げた今、チルボクまでをも失うわけにはゆかない。失う―?
 己れの想像のあまりの禍々しさに、凛花はつい声を荒げた。
「おい、何とか言えよ。チルボクがどうしたんだ?」
 インスの声が低くなった。
「昨日から、まだ家に戻っていない」
「―!!」
 凛花はインスに掴みかからんばかりの勢いで迫った。
「詳しく話してくれ」
「家の人の話では、昨夜、チルボクは飲み仲間の家に行くと言って、出かけたそうだ。だが、結局、朝まで帰ってこなかった。たまに仲の良い幼なじみの家に行くと、朝方まで飲み明かすこともあったから、家族も放っておいたというんだが―」
「その友達の家にも行ってないんだな」
 念を押すと、インスが昏い顔で頷いた。
「もう少し詳しい話が聞きたい。チルボクの家に案内してくれないか?」
 凛花の頼みに、二人は連れ立ってチルボクの家に行った。
 チルボクの家族は、到底、話を聞けるような状況ではなかった。チルボクの両親は共に四十代後半で、父親も母親もチルボクに似て、実直な働き者といった風だった。
 小柄で太り肉(じし)の母親は座り込んで、おいおいと泣いていた。それを四つ違いの妹が必死で宥めている。チルボクに面差しのよく似た背の高い父親は狭い家の中を熊のように所在なげにうろついていた。
 母親がふいに怒鳴った。
「あんたは、こんなときまで落ち着きがないね。少しは大人しくできないの?」
「これが落ち着いてられるか。お前こそ、煩せぇぞ。ちったア、静かにしろ」
 父親も気が立っているのか、負けずに怒鳴り返している。
 凛花は思わず二人の間に割って入っていた。
「おじさん(アデユツシ)、おばさん(アジモニ)。落ち着いて下さい」
 父親の方が凛花を胡散臭げに睨めつける。
「何だ、お前は。なるほど、お前が村長の家に居候しているとかいうお節介焼きの両班か。お前が来てから、この村にはろくなことがねえ。チルボクの嫁になるはずだったヘジンはおっ死んじまうし、今度はチルボクまで―」

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