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たまゆらの棘

第4章 再臨

「…産まなきゃ良かったのに…」倫は残酷に言った。赤ん坊のいる前で。
「だって…この子に罪はないから…」少女は言った。それを聞いて倫は静かに言った。
「生まれるだけで…罪はもの…生まれながらに罪な命もある。俺みたいな悪魔。」

「生まれるだけで…罪なもの…生まれながらに罪なもの…そんなものは…いない。」少女も静かに、だが、はっきりと言った。
「何故?」倫は聞いた。
「神様が全て赦して下さるから…」
「また、神様か。俺が苦しんでるとき、神はなにもしてくれなかった!」倫は叫んだ。
「いいえ。見てたわ。きっと。私も同じよ。」少女は目を伏せて言った。

「私たちが赦せば、私たちも赦されるわわ。」
「じゃあ俺は?俺も赦されるのか?」倫の目からまた涙が零れ落ちた。今までの自分の悪行が走馬灯のように駆け巡った。それと同時に、自分がされた悪行も痛みを伴いながら、走馬灯のように駆け巡った。

「…自分を赦して貰うには…人も赦さないと駄目なのよ。…神様は…もうあなたを赦してる。」

倫は全てを赦して貰うために全てを赦そうと思った。(俺の母親…義父…女たち…男たち…俺を見捨てた、神…)

涙が溢れた。虐待のPTSDはまだ倫の心を抉るようだったから。

赦すとはどんなに難しいことか。

でも倫は赦したかった…今までの全てを…そして赦されたかった。

少女と目が合った。

俺たちは男でも女でもない。ひとりひとりが堕天使だった。
いや、この少女と赤ん坊は天使だった。

「しあわせになりたい…」倫は言った。

「私、しあわせよ。」少女が微笑んで言った。

「そうか。そうだったね。ごめん。汚らわしくて。…俺は君の足先にも及ばない…」

「この子は誰の子かわからない。でも神様から祝福されてこの世に生まれた命です。」少女は倫を見てはっきり言った。


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