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たまゆらの棘

第3章 螺旋

倫は蝋燭を売りながらテントの奥の部屋で自分の身を売った。サムが一向に金を返す気配がなかったからだ。サムは自己嫌悪からか、気付いても文句は言わなくなった。倫には二丁目で体を売っていた時と決定的に違う事があった。不本意だった。体を売る事が。それはきっと藤原と出逢った時から始まっていた。藤原は大人の男だった。自分の事務所や店を持つ、やり手だった。倫はそんな藤原を自覚していなかったが、どこかで尊敬していたのかもしれない。何も出来ない自分だったが、自分もいつか、藤原のようになりたいと心のどこかで思っていたのかもしれなかったから。別れた原因…藤原は自分の妻と倫は似ても似つかないと言った。藤原は目の前にいる倫だけを愛していると言った。…何故、信じられなかったのだろうか…何故…そんな事が許せなかったのだろうか…倫は藤原が恋しくて泣いた。藤原…あれから一年、もうきっと新しい恋人がいるかもしれない。倫は悲しさと空しさに声を押し殺して泣いた…サムが部屋に入って来た。倫の泣き顔を見て言った。
「どうした?何が悲しい?今日は話しをしよう。真面目な話しだ…」サムは柄でもなくまともな様子で言った。

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