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たまゆらの棘

第2章 燃ゆる日々

「去年は白い薔薇だった。」倫は藤原の首に抱きついた。藤原は、大きなアールヌーボー調の模様の黒い鉄がガラスにはめ込まれた花瓶に赤い薔薇を飾りながら言った。「去年のお前は白い薔薇そのものだったからな。」
「ふーん…そうなんだ。今年は赤?」
「ああ。深紅。俺の中の倫。」
二人はオードブルを
藤原の店に注文してシャンパンを開けた。
「藤原のせいで、酒、強くなった気がする。」
「そうかもな。」藤原はにこりとした。
「来年は何色かなあ?」倫もにこりとして言った。
「もう決めてある。」「なにそれ?…つまらない。」倫はがっかりした。
「このまま行けばな。」「え?」
「俺達が…」藤原は幸せそうに言った。
「ふーん…」倫はカーテンを少し開け、夜景を見ながらシャンパンを一口飲んだ。そして去年の事を思い出した。

去年、倫は驚いた。
「俺は自分の誕生日が嫌いなんだ!余計な事をするなっ!」と言って白い薔薇の花束を床に叩きつけてばらまいた。あの時、藤原は言ったのだ。「俺の気持ちも嫌いか?…祝いたいんだ。倫がこの世界に生まれて俺と出逢った。…生まれてくれて、ありがとう、倫。」それを聞いて倫は赤くなった。素直に喜べない自分が恥ずかしかった。倫は自分の誕生日が嫌いだったから。…でも、今年は違っていた。というより、藤原がそれを変えたのだ。
倫の「死にたい」という願望は依然として変わらなかったが…。

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