
たまゆらの棘
第2章 燃ゆる日々
「卒業したらしいって…じゃ、受験生だったんだろ」谷口は言った。
「ん。L学園だったから…試験なし。」「L学園?…おいおい、どこの坊ちゃんなんだテメーは全く、」谷口はため息をついた。「…親の見栄さ、ただの…。それより谷口さん、いくつなの?」
谷口は吹き出した。
「聞くな。まあ、いいか。二十五だよ。貧乏暇なしの。本当はお前なんか飼う余裕ないんだよ。」そう言って谷口は渋い顔をして煙草をもみ消した。
「ちょうだいよ。一本でいいから…」
「ダメ。俺が犯罪者になる。」
「俺とヤラないのも犯罪者になるから?」「あーうるせー。仕事再開。あっち行ってろ。」倫は追い払われた。
昨晩、谷口に抱き締められながら名前を聞かれた。「…倫だよ。倫。」「どんな字?」「倫理の倫。…お父さんがつけてくれた。」「お父さん?」「うん。…俺の、お父さん。」谷口は急に倫が優しい口調になったので、何故、それなら家を出てきたのか聞こうと思った。だが、聞いた所で抱える勇気が自分にはないだろうと悟り、やめた。
ふたりの間にそれ以上の詮索はなかった。
谷口は日に日に何故か倫に優しくなっていった。
「倫、…俺の姫さまだもんな。」そんな冗談をよく言って、倫の髪を優しく撫でた。しかし倫はこの優しさが怖かった。自分は一生ここから出られなくなるのではないか。最近、谷口は倫の外出に口うるさくなっていた。
今朝は目が覚めると「俺の天使さま…」と言って倫の手の甲にキスをした。
「あ。谷口さん、俺にキスしたね。」
「思わず。」谷口はとろけそうな顔で言った。それを聞いた時に倫の心は決まった。(俺は悪魔だ。天使なんかじゃない…)谷口を利用するはずが、愛が生まれてしまいそうなのだった。倫という悪魔にとって愛ほど怖いものはなかった。
別れ話しをするのはおかしいだろう…倫はその翌日の早朝、谷口が寝ている間に、谷口の財布から、三万円を抜き取って、メモを残して、そっと谷口の家を出た。
谷口は目を覚まして心を撃ち抜かれた。
「谷口さん、ごめんなさい、俺は間違っていました。俺は愛される人間じゃないんです。今まで愛をたくさんありがとう」メモにはそう書いてあった。
倫、十六歳の夏だった。
「ん。L学園だったから…試験なし。」「L学園?…おいおい、どこの坊ちゃんなんだテメーは全く、」谷口はため息をついた。「…親の見栄さ、ただの…。それより谷口さん、いくつなの?」
谷口は吹き出した。
「聞くな。まあ、いいか。二十五だよ。貧乏暇なしの。本当はお前なんか飼う余裕ないんだよ。」そう言って谷口は渋い顔をして煙草をもみ消した。
「ちょうだいよ。一本でいいから…」
「ダメ。俺が犯罪者になる。」
「俺とヤラないのも犯罪者になるから?」「あーうるせー。仕事再開。あっち行ってろ。」倫は追い払われた。
昨晩、谷口に抱き締められながら名前を聞かれた。「…倫だよ。倫。」「どんな字?」「倫理の倫。…お父さんがつけてくれた。」「お父さん?」「うん。…俺の、お父さん。」谷口は急に倫が優しい口調になったので、何故、それなら家を出てきたのか聞こうと思った。だが、聞いた所で抱える勇気が自分にはないだろうと悟り、やめた。
ふたりの間にそれ以上の詮索はなかった。
谷口は日に日に何故か倫に優しくなっていった。
「倫、…俺の姫さまだもんな。」そんな冗談をよく言って、倫の髪を優しく撫でた。しかし倫はこの優しさが怖かった。自分は一生ここから出られなくなるのではないか。最近、谷口は倫の外出に口うるさくなっていた。
今朝は目が覚めると「俺の天使さま…」と言って倫の手の甲にキスをした。
「あ。谷口さん、俺にキスしたね。」
「思わず。」谷口はとろけそうな顔で言った。それを聞いた時に倫の心は決まった。(俺は悪魔だ。天使なんかじゃない…)谷口を利用するはずが、愛が生まれてしまいそうなのだった。倫という悪魔にとって愛ほど怖いものはなかった。
別れ話しをするのはおかしいだろう…倫はその翌日の早朝、谷口が寝ている間に、谷口の財布から、三万円を抜き取って、メモを残して、そっと谷口の家を出た。
谷口は目を覚まして心を撃ち抜かれた。
「谷口さん、ごめんなさい、俺は間違っていました。俺は愛される人間じゃないんです。今まで愛をたくさんありがとう」メモにはそう書いてあった。
倫、十六歳の夏だった。
