
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第26章 別離
直に下り坂が終わり、平坦な道に出た。ここから、ふもとの村までは歩いても知れている。向こうから荷を背負った商人らしい男がゆっくりと歩いてくる。主街道から枝分かれする道から来たのだろう。直に道は再び二方向に分岐する。左へ進めば、村へと続き、右へ進めば、少し先で行き止まりになっている。
行商人らしい男は迷いのない足取りで左の小道へと分け入っていった。男の足許からは乾いた砂埃が舞い立ち、透き通った朱色の夕陽の光を煙らせている。月照庵を出たときはまだ昼過ぎだったけれど、流石にもう夕刻近くになっている。
行商人とすれ違い、夢五郎はつと振り返る。たとえ小さな山とはいえ、生い茂る緑の樹木に閉ざされ、山上の月照庵は見えない。
もう、二度とこの道を通ることはないだろう。母にも―今日、生まれて初めて〝あの人〟を母上と呼んだ―、別れの挨拶をしてきた。これ以後は誰か信頼のできる家人が金を母に届けることになるはずだ。
行商人らしい男は迷いのない足取りで左の小道へと分け入っていった。男の足許からは乾いた砂埃が舞い立ち、透き通った朱色の夕陽の光を煙らせている。月照庵を出たときはまだ昼過ぎだったけれど、流石にもう夕刻近くになっている。
行商人とすれ違い、夢五郎はつと振り返る。たとえ小さな山とはいえ、生い茂る緑の樹木に閉ざされ、山上の月照庵は見えない。
もう、二度とこの道を通ることはないだろう。母にも―今日、生まれて初めて〝あの人〟を母上と呼んだ―、別れの挨拶をしてきた。これ以後は誰か信頼のできる家人が金を母に届けることになるはずだ。
