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蜜会…五月雨

第4章 五月雨(さみだれ)

 8

「あら………また、雨……………」

 ブー、ブー、ブー………

 わたしは、窓を濡らす雨粒を見つめ…

 そう呟きながら、スマホを取り出す。

「あら……夫から………」

「あ…」

「雨が降ったら、向かえに…って、今朝、話してたの…」

 ブー、ブー、ブー………

 わたしは、スマホの外部スピーカーのボタンを押し……

「そ、そうか……じゃ、また……」

「はい……もしもし…わたしです…………」

 彼は、静かに、部屋を、出て行った―――

「いや……雨だからさ………」

 夫は、静かに話してくる。

「あ、あら……わたし、気付かなくて………」

 少し、呼吸が、高まる…

「あ、うん………
 そんな大した雨じゃないんだがな……」

「え、でも…濡れてしまいますし…
 あ、どちらに……お迎えに行きますわ………」

 そう言いながら…

 左指に、通していく………

「あ、いいのか……」

「ええ、もちろん…ですわ………」

「すまないな…」

 そして、雨粒に濡れる窓を見つめ…

「あ、そう……せっかくだから…………」

 わたしは……

『せっかくだから…』
 
 心から、忌み嫌った…
 この言葉を、口に出した―――

「ん……」

「そう…せっかくだから…………」

「…………」

「ついでに、お食事でもいかがかしら……」

「あ、いい……な………」

「はい…せっかくだし……
 ほら、もうお義母様も退院なさるし…」

「…………」

「二人で、退院の前祝いでもしましょうよ…」

「え、あ……」

 わたしは…

「……………」

 息を、飲み…

 そして…

「そう、わたしね、今ね……」

 カラダが熱くなる……

「わたしね、今ね……」

「……………」

「い、今ね……ちょうどね………
 あの、○○ホテルに、いますの…………」

「………っ…」

 スマホのスピーカー越しに…

 夫の、固唾を飲み込む音が、聞こえてきた。

「だから、ううん、せっかくだから………」

「…………」

「ここで、お食事しましょうよ………」

 五月雨は、変わらず、降り続いていた―――
 
           
 五月雨に
 濡れてほどける
 すまし顔
 触れぬ距離さえ
 熱を帯びゆく

 
            蜜会 終。



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